研究日誌(2022/6/23)フッサールの訳語について(第2弾)

<■研究日誌(2022/4/15)フッサールの訳語について>の続編を書く。 まず、便宜のため4/15版を引用しておく: ■フッサールの訳語「共現前」について 『間主観性の現象学Ⅱーその展開』にはこうある。 訳注〔45〕Appräsentation 本書第一部訳注〔27〕にあるよ…

研究日誌(2022/6/15)マッキンタイアの物語論的人格同一性(personal identity)について

■A.マッキンタイア『美徳なき時代』(篠崎栄訳、みすず書房、1993(MacIntyre, A. After Virtue. University of Notre Dame Press, 1984))より引用する。 「‥‥デレク・パーフィットと他の論者は最近、厳密な同一性の規準と人格性の心理的連続性との間の対…

研究日誌(2022/5/31~)可能世界論で途切れ途切れに思うこと

■『ディヴィッド・ルイスの哲学』(野上志学、青土社、2020)を読み、人文死生学の展開にとって役に立ちそうな箇所を書き留めておく(正確な引用ではないが)。 p.52 対応者理論による事象的可能性の分析。 xが可能的にFである(◇Fx)のは、ある世界wが存在…

オンラインジャーナル「こころの科学とエピステモロジー」 2022年5月25日 第4号公開!

■電子ジャーナル こころの科学とエピステモロジー 2022年5月25日 第4号 Vol.4, 2022 公開! 続いてJ-Stage公開準備中。創刊準備号~第3号の各記事は、各ISSUE目次からダウンロードできる他、J-Stageからのダウンロードが便利です。 第4号の主な内容 ・原…

研究日誌(2022/5/24)心身スーパーヴィーニエンス説のダメっぷり

■『物理世界のなかの心』(ジェグオン・キム (Jaegwon Kim)、太田雅子訳、勁草書房、2007)を読む。 世評高い本だが、物(脳神経系)への心のスーパーヴィーニエンスを擁護する本だと思ったら、いかにスーパーヴィーニエンスが駄目かを論証する本だった。の…

アグリッパ・ゆうの読書日記(2022/5/2):『真説 日本左翼史:その源流1945-1960』池上彰・佐藤優(講談社、2021)

続編の『激動 日本左翼史 1960-1972』を先に読んだが、厳密に同時代人である評者にとっては知っていることばかりで余り面白くなかった。それに対してこちらは、評者が小中学生の頃で、うっすらと記憶にある程度しか知らないので、結構ためになった。 そもそ…

研究日誌(2022/4/15)フッサールの訳語について

■フッサールの訳語「共現前」について 『間主観性の現象学Ⅱーその展開』にはこうある。 訳注〔45〕Appräsentation 本書第一部訳注〔27〕にあるように、「共現前Appräsentation」もKompräsentationと同様、「現前Präsentation」の対概念である。従来、Appräse…

研究日誌(2022/4/11)『こころの病いときょうだいのこころ: 精神障害者の兄弟姉妹への手紙』より。

■『こころの病いときょうだいのこころ : 精神障害者の兄弟姉妹への手紙』(滝沢武久著、京都:松頼社、2017)より。手紙に答える形での質疑応答から抜粋しておく。 Q「医師や支援者からは症状が安定してよくなっていると聞きましたが、発病前とはほど遠く、…

研究日誌(2022/3/19)フッサール他者論、リシールの空想身体論、ファンタシアを経由して間身体性へ?

■「「間身体性」の近さと隔たりー間身体性の倫理学の構想(2)ー」(坂本秀夫著、跡見学園女子大学文学部紀要、第54号:125-144、2019)を読むの巻(2) 二度目に読んで、何となく分かってきた。その間、参照文献に挙がっていた、Richir, M. (2006). "Leib…

研究日誌(2022/2/26)間身体性は間主観性への通路になりうるか?

■間身体性は超越論的間主観性への通路になるか? 以前の記事(2021/5/1)の続きになるが。この記事で紹介した坂本秀夫氏の著書『他者としての身体』(ヴィツーソリューション、2009)を読んで、続きを書く。 「他者と私とは、いわば同じ一つの間身体性の器官…

アグリッパ・ゆうの読書日記(2022/02/18)ドストエフスキー『白痴』を半世紀以上たって再読した

■『白痴』(ドストエフスキー、米川正夫訳、岩波文庫、改版1992)を半世紀以上たって再読しました。 初読はたぶん、10代末の頃か。きっかけは、小林秀雄のドストエフスキー論に引用されている夢についての洞察が何頁にあったか、正確なところを、自分の仕事…

アグリッパ・ゆうの読書日記(2022/2/5)『激動 日本左翼史 学生運動と過激派 1960-1972』(池上彰・佐藤優、講談社、2021)

■『激動 日本左翼史 学生運動と過激派 1960-1972』(池上彰・佐藤優、講談社、2021)を読む。 評者のように同時代を生きた人間にとっては、周知のことばかりで特に目新しさはない。結論は第3章の最後に佐藤優の言葉として述べられているので、長文…

アニメ『家なき子』(1977年製作)を見る

■小学生の頃は科学少年で、「ファーブルの昆虫記」とか「アンナプルナ登頂」とか、野尻抱影の「天体の神秘」シリーズとか、高学年になってはコナンドイルに夢中だったので、児童文学の名作をほとんど読み損ねてしまっていた。 数年前、『小公子』『小公女』…

映画『世界で一番美しい少年』を見る

■一昨日(12月27日)は、月曜のこととて図書館も休みだったので、また新宿まで足を伸ばし、スエーデンのドキュメンタリー映画『世界で一番美しい少年』を見た。 新宿東南口を出てすぐ左に曲がったところの縦に細長いビルの地下にある、「新宿シネマカリテ」…

Marc Richir (2006): Leiblichkeit et Phantasiaで指摘されるフッサール間主観性論のパラドックス構造

■Psychothérapie phenoménologique , sous ladirection de Mareike Wolf-Ferida (Paris: MJW Fedition, 2006) がアマゾン経由で来たので、Ⅲ. Leiblichkeit et Phantasia, par Marc Richir (pp. 35-45) を読み始める。 思っていた通り、ひどく難解。 けれど、…

アグリッパ・ゆうの読書日記(2021/12/14)『女装の剣士シュヴァリエ・デオンの生涯』に深甚なる感銘を受ける

■窪田般弥著『女装の剣士シュヴァリエ・デオンの生涯』(白水社、1995)を遅まきながら一読しました。 シュヴァリエ・デオンものは、アニメ「シュヴァリエ」、斎藤明子作『仮想の騎士』と、今世紀に入ってからのフィクションものに接してきて、もう一つ肝心…

映画『リトル・ガール』を見る

■昨日(11/25)は、新宿まで足を伸ばして武蔵野館で『リトル・ガール』(セバスチャン・リフシッツ監督、フランス、2020)を見た。 コロナ騒ぎが始まって以来、新宿は乗換ポイントとして通るだけだったので、街を歩いたのは2年ぶりになるだろうか。平日の昼…

心理学者正高信男氏の論文不正報道について

■もう一週間前になるが、京大霊長研所属(今年度定年退職)の心理学者正高信男氏に論文不正があったことが大学側の調査で判明したというニュースを読んだ。 ああ、やっぱり、と思った。氏の著書といえば、数年前に自分のコミュ障研究の必要性から、『コミュ…

アニメ『竜とそばかすの姫』の舞台高知と記憶の不思議

■昨日(2021年10月6日)は、緊急事態制限解除に乗じ、ひさしぶりに映画館に足を運んだ。 細田守監督の『竜とそばかすの姫』が上映中だったので、さっそく入場した。面白かったけれど、ここで書くのは作品内容についてでない。 主人公の高校生すずが通学に通う…

研究日誌(2021/9/3)Paul Ricoeur, "Hermeneutics and the human sciences"再読(2)

■Paul Ricoeur, "Hermeneutics and the human sciences: Essays on language, action and interpretation"(Edited,translated and introduced by J. B. Thompson, Cambridge: Cambridge University Press, 1981)からの引用を続ける。 4. The hermeneutical…

どこへいった「罪を憎んで人を憎まず」の精神:池袋暴走死傷事件裁判に思う

先日(9/2)に判決が出た池袋暴走死傷事件は、事件そのものよりそれへの反応の方が、今までになく後味の悪いものになってしまっている。 遺族の気持ちは分かるとしても、本来やるべきことは二度とこのような事件が繰り返されないよう制度的改革を働きかける…

研究日誌(2021/9/3)Paul Ricoeur, "Hermeneutics and the human sciences"を再読する

■Paul Ricoeur, "Hermeneutics and the human sciences: Essays on language, action and interpretation". Edited,translated and introduced by J. B. Thompson, Cambridge: Cambridge University Press, 1981. リクールの1980年頃までの著作をまとめた便…

信憑性を増すコロナウィルス武漢研究所流出説

『文芸春秋』2021年8月号にも長文のレポート「武漢ウィルス人工説を追え!」(近藤奈香)が載り、コロナウィルス武漢研究所流出説がいよいよ信憑性を増してきた。 私は最初から疑っていた。武漢のウィルス研究所から800メートルしか離れていない市場から…

研究日誌(2021/8/8)『数学に魅せられて科学を見失う:物理学と「美しさ」の罠』(ホッセンフェルダー著、吉田三知世訳、みすず書房、2021)を読みながら、人文死生学研究会の発表を反省する

「理論物理学で現在人気のテーマは、単純さ、自然さ、そしてエレガントさだ。これらの言葉は、厳密に言えば、恒久的な定義を得ることは決してないし、私も本書でこれらを定義しようと試みるつもしはない。これらの言葉がいまどのように使われているかという…

出版のお知らせ『明日からネットで始める現象学:夢分析からコミュ障当事者研究まで』(新曜社刊)

■『明日からネットで始める現象学:夢分析からコミュ障当事者研究まで』(渡辺恒夫著、新曜社、2310円)が6月20日に発売になったので、お知らせします。 差し支えない範囲で、「はじめに」の冒頭部分を以下に引用します。 【はじめに】 心理学というと親しみ…

アグリッパ・ゆうの読書日記(2021/6/9)『人は簡単には騙されない』(ヒューゴ・メルシエ、青土社、2021)で初めて知る毛沢東の正体

■『人は簡単には騙されない:嘘と信用の認知科学』(ヒューゴ・メルシエ、高橋洋訳、青土社、2021)を読む。 原書は英語だが著者はフランスの認知科学者。関連性理論のスペルベルの弟子らしい。 というか、そもそも関連性理論を20年前に読んだときには、スペ…

研究日誌(2021/05/25)フッサール「想像と映像意識」における「比較」という方法

■1905-06年の講義「想像と映像意識」(Husserl, E. (1980). Phantasie und Bildbewusstsein, In E. Marbach (Ed.), Husserliana XXIII. The Hague: Martinus Nijhoff.)の原文を3度目に読み返している。ドイツ語力の不十分さを相変わらず嘆きながら。 フッ…

電子ジャーナル『こころの科学とエピステモロジー』3号公開のお知らせ

★★★新感覚のオープンアクセスジャーナル『こころの科学とエピステモロジー』3号(Vol.3)が公開されました。このサイト⇒ISSUES⇒第3号Vol.3から、全記事ダウンロードできます。2号までJ-Stage搭載を終わり、3号の搭載作業中です。 ■エディトリアル「心の科…

アグリッパ・ゆうの読書日記(2021/5/3)『当事者が語る精神障がいとリカバリー』で発見したゲームとホメロスの関係/当事者と家族のすれ違い

■『当事者が語る精神障がいとリカバリー:続精神障がい者の家族への暴力というSOS』(YPSヨコハマピアスタッフ協会&影山正子、編著、明石書店、2018)を読む。ためになる一文をみつけたので、忘れないうちに引用しておく。 「ひきこもっていた時、テレビ…

研究日誌(2021/5/1)想像について

「「間身体性」の近さと隔たりー間身体性の倫理学の構想(2)ー」(坂本秀夫著、跡見学園女子大学文学部紀要、第54号:125-144、2019)を読むの巻 久しぶりに読み応えのある日本語論文に出会った。これまで私がいろんなところに書いた、自己の死と他者とは…