手作りの科学としての夢研究No3

【手作りの科学としての夢研究No2】から続く。

10 夢事例2「海の彼方からの侵略で逃げ惑う夢」

 続いて事例2を分析する。この事例を含めて、夢事例1から夢ブログにアプロードされた5つの事例をすべて分析することにする。論文に書く場合、とかく、「サンプリングの恣意性」(都合のいい事例ばかり取って来たのではないかという嫌疑)といった批判を受けやすいので、分析しやすいかどうかは二の次にして、ある程度は機械的に、順序通りに分析にかけねばならない。もちろん、初心者の場合は、分析しやすい夢から始めても構わないのだが(現象学的分析にとっては、どこから始めても同じ結果がでることについては、渡辺(2018)参照)。

● 夢事例2 「海の彼方からの侵略で逃げ惑う夢」

2019年11月17日。海の彼方からの侵略で逃げ惑う夢。

 海のそばに建つ大きなマンションのような建物の中に、たぶん十人前後の仲間たちといた。
 何かが海の彼方から侵略しに来るというので、建物の内部をにげまどっていた。宇宙人かも知れない。でも、私たち以外の人々は、知らないようだった。
 マンションも危なくなったので、隣接する、研究所らしき敷地に、無断で入り込んだ。窓の中に、所員らしき人影が、デスクワークにいそしんでいるのが見えた。
  と、警戒音が鳴り響く。とはいえ、研究所の中の人々に目立った動きはないので、無視して敷地を突っ切る。
 憶えているのはこれだけだ。本当はもっと長いストーリーがその前にあったはず。目ざめてすぐメモしておけば芋蔓式に夢全体がたぐり寄せられると思って、3行ほどメモをしておいたのだが、正午ごろになってこうして書きだして見ても、メモ以上には何もよみがえらない。

●夢の物語構造分析

・序幕(提示) 海のそばに建つ大きなマンションのような建物の中に、たぶん十人前後の仲間たちといた。
・第二幕(展開) 何かが海の彼方から侵略しに来る~建物の内部をにげまどっていた。宇宙人かも~私たち以外の人々は、知らないようだった。
・第三幕(クライマックス) マンションも危なくなったので、~窓の中に、所員らしき人影が、デスクワークにいそしんでいるのが見えた。
・終幕(終結) と、警戒音が鳴り響く。とはいえ、研究所の中の人々に目立った動きはないので、無視して敷地を突っ切る。

●夢の異世界分析

・序幕 現実には覚えがないが、あったかもしれない。
・第二幕 宇宙人かもしれない何かが海の彼方から侵略しに来ることを知っているのは「私たち」だけ。現実にはありえない空想的設定。
・第3幕 第二幕からの流れとしてはあり得る展開。
・終幕 第3幕の流れとしてはありうる展開。

●夢の現象学的分析

・第二幕について、(夢の現象学(169)の)表2「夢世界の原理」①と④を適用する。①から、「宇宙人かもしれない何かが海の彼方から侵略しに来ることを知っているのは「私たち」だけ」と空想した。④から、「あたかも宇宙人のような何かが彼方から侵略しに来るかのように私はこの世界を感じている。しかもこの脅威を知っているのは「私たち」だけという孤立感がある」。
・第三幕、終幕。第二幕からの流れとして自然の展開なので、第二幕で設定された世界観の延長として捉えられる。

●夢の意味――深層のテクスト

 第二幕に集約される。

――私は、「宇宙人かもしれない何かが海の彼方から侵略しに来るらしい。このことを知っているのは「私たち」だけなのだ」と空想する。それは、「あたかも宇宙人のような何かが彼方から侵略しに来るかのように私はこの世界を不安定に感じていて、しかもこの脅威を知っているのは「私たち」だけという孤立感がある」からである。

 これは、「仮説」のように響くかもしれない。ホールのシリーズ分析では、夢分析は一人について10以上のシリーズについてなされるのがよいとされる。それは、最初の方の夢で作られた仮説(たとえば、嵐の海を小舟で漂うといった舞台背景は、世界と人生をそのように感じていることの具象化)が、後の方の夢で検証・反証される可能性があるからである。けれども、「考察」の項で論じるように、現象学では仮説を作らない。ここに解釈された夢の意味とは、ある夜のある状況で見られた特定の夢という「視点」を通して見られた「深層のテクスト」であって、決定的に間違っていたり絶対的に正しかったりするものではない。単に、より多くのデータに接することで、より多面的な視点を通して眺められ、ここでの洞察が精緻化されていくという過程であって、仮説→検証の過程とは違う。

11 夢事例3

●夢事例3 「赤茶けた雄大な風景」

 2019年11月29日(金)。最初の方は例によって憶えていない。

 S君が出てきて、何か話したような気がするが、はっきりしない。とにかく、自然の風景の中を、自転車を走らせているのだった。
 山腹のようなところで、町に向かって行くつもりだったが、ある道を選んで行くと、さらに二股に分かれる。その左側を行くと、どうやら道を誤ったらしく、大きな谷間に沿って道は少しづつ登り坂になっている。
 これでは町とは反対方向になってしまう。
 大きな谷の、赤茶けた雄大な風景がひろがる。
 すると、J先生がスマホに電話してくる。C市と連絡が付いたから、話してみるか、とのこと(この辺、電話の相手のJ先生が、直接出てきたような気がする)。道に迷っているので助け舟を出してくれるだろう、という意らしい。J先生は政治力があるから、可能かもしれない。
 この辺で目が覚めた(午後2時ごろ)。

●夢の物語構造分析

・序幕(提示) S君が出てきて、何か話したような気がするが、はっきりしない。とにかく、自然の風景の中を、自転車を走らせているのだった(友人が出てくる前半は別の夢かもしれないが、便宜上ここにまとめておく)。

・第二幕(展開)山腹のようなところで、町に向かって行くつもりだったが、ある道を選んで行くと、さらに二股に分かれる。その左側を行くと、どうやら道を誤ったらしく、大きな谷間に沿って道は少しづつ登り坂になっている。

・第三幕(クライマックス)これでは町とは反対方向になってしまう。/大きな谷の、赤茶けた雄大な風景がひろがる。

・終幕(終結)すると、J先生がスマホに電話してくる。C市と連絡が付いたから、話してみるか、とのこと(この辺、電話の相手のJ先生が、直接出てきたような気がする)。道に迷っているので助け舟を出してくれるだろう、という意らしい。J先生は政治力があるから、可能かもしれない(ユングによると、終結(ending)とは解決(solution)もしくは破局(catastrophe)のことだというが、ここはかなり綺麗な「解決」になっている)。

●夢の異世界分析

序幕 「S君が出てきて、何か話したような気がするが、はっきりしない。」大学時代の友人で九州在住。長く病気療養中ということで50年近く会っていないが、最近手紙のやり取りをしている(彼はパソコンを持っていない)。現実には会う可能性のない遠方の友人と話していたところに異世界性がある。

序幕の後半から第二幕~第3幕にかけて。見たことのない風景の中、自転車で道に迷っている。山中で道に迷ったことはあるが、自転車でではない。現実に経験してなくともあり得ることだが、「大きな谷の、赤茶けた雄大な風景がひろがる」には非現実感がある。

終幕。現実にはあり得ないと思うが、J先生ならいかにもやりかねないと思わせる状況だ。世田谷の家の使い道について、ご子息が不動産経営をやっているというので、だいぶ前相談しかけたことがあった。電話と言えば、半年前にJ先生から電話があった。私は、その当時の学会のいざこざを巡ってのことだと思い込んで、出なかったものだ(あとで誤解だと分かったが)。

●夢の現象学的分析

序幕 S君とは手紙のやり取りをしていて、まるで実際に話しているかのように、心の内でも対話している。

序幕の後半から第二幕~第3幕。まるで見知らぬ光景の中で迷っているかのように、自分を感じている。

終幕 世間通で政治力もある人物を頼りにしたいというところがある。

●「夢の意味――深層のテクスト

 序幕のS君のくだりは前の(別の)夢に属するものとみなして省略する。
 夢の意味はこうであるーー私は見知らぬ光景の中に迷い込んだように自分を感じているが、反面、世間通で政治力のある人物を頼りにしたく思っている。

<続く>

 

◇◇◇◇◇参考文献「他者になる夢の現象学的解明:フッサール志向性論に基づく主題分析」渡辺恒夫著『質的心理学研究』17:66-86、2018(新曜社発売)。
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