出版のお知らせ『明日からネットで始める現象学:夢分析からコミュ障当事者研究まで』(新曜社刊)

■『明日からネットで始める現象学:夢分析からコミュ障当事者研究まで』(渡辺恒夫著、新曜社、2310円)が6月20日に発売になったので、お知らせします。

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差し支えない範囲で、「はじめに」の冒頭部分を以下に引用します。

【はじめに】
 心理学というと親しみやすく感じられる。けれど現象学ときたら、一世紀前にはじまった哲学の一派でいかにもムツカシそう、と思っていませんか。
 ところが、それはちょっと違うのです。
 現象学は元来が心理学であり、それも最も心理学らしい心理学なのです(中略)。なぜなら、現象学とは、自分自身の体験の世界を観察して記述し、体験の意味を明らかにする学問だからです。
 自分の体験を記述するなどというと、なんだか日記を付けることから始まる学問みたいに響くかもしれません。じじつ、日記というのは現象学の重要な材料のひとつなのです。
 といっても、学問をはじめるには、「なぜ?」という問いに、謎に、直面することが必要です。万学の祖といわれる古代ギリシャアリストテレスは、「学問の始まりは驚きである」ということばを残しています。でも、私たちの日々の生活のなかでは、驚きや謎の感覚をひきおこして、観察し記述しその意味を解きたくなるような体験が、はたして簡単に見つかるでしょうか。
 それが、あるのです。毎夜、私たちが見る夢が、それなのです。
 精神分析の祖、フロイトは、「夢は無意識への王道である」という有名なことばを残しました。1900年のことです。それから120年ほどたった今、私はあえて次のようにいうことにしています。
 夢は現象学への王道である。
 そう。現象学を学ぶのに、現象学入門といったムズカシそうな本を読むことから始める必要はありません。まず、現象学を使ってみること、現象学することが、一番いいのです。
 現象学するのに、その第一歩が明日の朝から夢日記をつけ始めることなのです。
(後略)

【目次】

第一部入門篇
第Ⅰ章 手作りの科学としての夢研究――物語論現象学分析
Ⅰ―1 夢日記をつけるーーデータ収集
Ⅰ―2 夢データをウェブ公開する
 Ⅰ―3 夢分析第1段階(ユングの物語構造論的分析)――夢は四幕劇である
 Ⅰ―4 夢分析第2段階(異世界分析)――夢は異世界転生である
 Ⅰ―5 夢分析第3段階(現象学分析)――夢世界の原理を手引きとして
 Ⅰ―6 夢分析第4段階(夢の意味)――夢という物語に隠れた心理的現実
第Ⅱ章 現象学超入門(一)体験世界の志向性構造
 Ⅱ―1 現実世界の体験構造
 Ⅱ―2 夢世界の体験構造――未来や過去を現在として生きる夢、空想や小説を現実として生きる夢
 Ⅱ―3 意識の志向的構造――現象学の基本中の基本
 Ⅱ―4 夢世界での志向性構造の変容――「夢世界の原理①②」の解明
 Ⅱ―5 レイコフのメタファー論――「夢世界の原理③④」の解明
第Ⅲ章 夢シリーズの物語論現象学分析
 Ⅲ―1 夢事例6「海の彼方からの侵略で逃げ惑う夢」
Ⅲ―2 夢事例7「子犬が蝉になる夢」
Ⅲ―3 夢という現象学の王道を歩んでこそ得られる、内面世界への確信
第Ⅳ章 現象学超入門(二) フッサール現象学
Ⅳ―1 ブレンターノと志向性の発見
Ⅳ―2 ブレンターノからフッサールへーー実験現象学者たち
Ⅳ―3 難しくなりすぎたフッサール現象学――超越論的現象学と心理学的現象学
Ⅳ―4 現象学的還元とエポケー
Ⅳ―5 デカルトの方法的懐疑とフッサール現象学
Ⅳ―6 夢の現象学現象学的還元から始まる
Ⅳ―7 本質観取――現象学的方法の次の段階
Ⅳ―8 夢研究における本質観取

第二部応用篇
第Ⅴ章 現代へ向かう現象学の展開――ハイデガーからリクールまで
 Ⅴ-1 現象学的哲学の三つの時代と現象学的心理学の三つのアプローチ
 Ⅴ-2 実存主義的転回の時代
(1)ハイデガーの登場/(2)サルトルとまなざしの現象学/(3)付論 他者問題とは何か/4)メルロー・ポンティと『幼児の対人関係』
Ⅴ-3 解釈学的転回の時代(1960―2005)――ガダマーとリクール
第Ⅵ章「コミュ障」の当事者研究――インターネット相談事例をもとに
 Ⅵ―1 コミュ障とは
 ・コミュ障とは/「コミュニケーション能力テスト」をやってみると/アッパー型コミュ障?/読んではいけない!「専門家」によるコミュ障本ふたつ/コミュ障の同義語としての「人づきあいが苦手」
 Ⅵ―2 自分を猫だと思えますか?――相談事例への卓抜な回答
 ・ネット相談事例1女性――「人づきあいが苦手で人生が苦痛です」/一人称的読みーー現象学の出発点/「地平」をひらき「地平融合」に達する/他者の心を読まないことが雑談に加わる資格!?
 Ⅵ―3 ナラティブの種類でアドヴァイスを分類すると
 ・レス(回答)が因果物語りになっている件/リクールのナラティブ現象学でレスを分類する(1親のせいナラティブ・2社会のせいナラティブ・3脳のせいナラティブ・「共」のナラティブvs「独」のナラティブ)
 Ⅵ―4 オモテ世界のコミュ障とネット世界のコミュ障の違い
 Ⅵ―5 職場の困難を訴える男性事例 付 コラム「私が心理臨床家にならなかった理由
 Ⅵ―6 結論と展望
第Ⅶ章 現象学の過去から未来へ
Ⅶ-1「現象学すること」のおさらい
 1)エポケーに始まる現象学的還元/2)本質観取
Ⅶ-2 現代へ向かう現象学の展開(二)――心理学・精神医学篇
1) ヤスパース精神病理学/2)現象学的精神医学の興亡/3)現象学的心理学の新たなる登場/4)現象学的分析段階進行表による「夢世界の原理」の導出/5)現象学的分析手続きのモデル化
Ⅶ-3 現象学の未来ーー万人の万人による万人のための現象学
読書案内・あとがき