研究日誌(2022/4/15)フッサールの訳語について

フッサールの訳語「共現前」について

間主観性現象学Ⅱーその展開』にはこうある。

訳注〔45〕Appräsentation  本書第一部訳注〔27〕にあるように、「共現前Appräsentation」もKompräsentationと同様、「現前Präsentation」の対概念である。従来、Appräsentationに対して「間接現前」や「付帯現前化」(『現象学事典』)といった訳語が使われてきたが、「間接(的)」や「付帯(的)」とするのは必ずしも適切ではないと思われる。「現前」がそのうちに分裂を含み、「原現前」と「共現前」の協働-絡み合いによって成立しているという意味をこめて、できるだけシンプルに「共現前」と訳した。以上、『その方法』第二部の訳注〔2〕、三六〇頁以下をも参照。(『間主観性現象学Ⅱーその展開』浜渦・山口/監訳、ちくま学芸文庫、2013、p.179)

とあるので、『間主観性現象学Ⅰーその方法』の訳注該当部分を参照すると:

訳注〔2〕Präsentation und Kompräsentation 前述(本書第一部訳注〔50〕断章)の対語と同じ意味の対語である。この前後の編者注からも分かるように(‥‥)、フッサールはこのテキストで、現前もしくは「原現前Urpräsentz」と「共現前」との対比を表す語に迷いが見られ(原注3を参照)、「Kompräsenz/Kompräsentation」という語から次第に「Appräsenz/Appräsentation」へと移っていったことが分かる(両者を日本語で訳しわけるのは困難)。従来、Appräsentationに対して「間接現前」や「付帯現前化」(『現象学事典』)といった訳語が使われてきたが、「間接(的)」や「付帯(的)」とするのは必ずしも適切ではないと思われる。「現前」がそのうちに分裂を含み、「原現前」と「共現前」の協働-絡み合いによって成立しているという意味をこめて、また、このテキストに見られるように、初めはKompräsentationという語を使っていったのを次第にAppräsentationという語に変えて行ったという経緯もあり、できるだけシンプルに「共現前」と訳した。(『間主観性現象学Ⅰーその方法』浜渦・山口/監訳、ちくま学芸文庫、2012、pp360-361)

 けれども、ともに「共現前」と訳してしまっては、フッサールがなぜ、Kompräsentationという語をAppräsentationという語に変えて行ったかの理由を不問にしたままになってしまおう。むしろ、共に現前してしまうのではなく、現前へと向かうという意味で、「向現前」とすべきではないか。

 

z