■内海健(2008)「フッサールのナイフ」(『日本病跡学雑誌』76、所収)より抜粋する。
『デカルト的省察』(1931)の中には次のような文言がある。「二つの第一次的領域は‥‥私には越えてゆくことのできない深淵(Abgrund)によって切り離されているのではないだろうか」(Husserl, E.: Cartesianische Meditationen und Parisier Vorträge. Husserliana I, S.150, 1929)
「第一次領域」とはモナドとしての意識であり、二つの第一次的領域とは私のモナド世界と他者のモナド世界である。その二つが深淵によって切り離されているということは、フッサールにとってはひとつでしかないはずの「世界」が、他者によってひび割れるものであることを示している。しかしこの一瞬はすぐに閉じられてしまい、そこから展開されることはない。
そもそも第一次的領域を前提するところが、他者との出会い損ねをあらかじめ運命づけている。‥‥(p.57)
<作業中 未完>