2021-01-01から1年間の記事一覧

映画『世界で一番美しい少年』を見る

■一昨日(12月27日)は、月曜のこととて図書館も休みだったので、また新宿まで足を伸ばし、スエーデンのドキュメンタリー映画『世界で一番美しい少年』を見た。 新宿東南口を出てすぐ左に曲がったところの縦に細長いビルの地下にある、「新宿シネマカリテ」…

Marc Richir (2006): Leiblichkeit et Phantasiaで指摘されるフッサール間主観性論のパラドックス構造

■Psychothérapie phenoménologique , sous ladirection de Mareike Wolf-Ferida (Paris: MJW Fedition, 2006) がアマゾン経由で来たので、Ⅲ. Leiblichkeit et Phantasia, par Marc Richir (pp. 35-45) を読み始める。 思っていた通り、ひどく難解。 けれど、…

アグリッパ・ゆうの読書日記(2021/12/14)『女装の剣士シュヴァリエ・デオンの生涯』に深甚なる感銘を受ける

■窪田般弥著『女装の剣士シュヴァリエ・デオンの生涯』(白水社、1995)を遅まきながら一読しました。 シュヴァリエ・デオンものは、アニメ「シュヴァリエ」、斎藤明子作『仮想の騎士』と、今世紀に入ってからのフィクションものに接してきて、もう一つ肝心…

映画『リトル・ガール』を見る

■昨日(11/25)は、新宿まで足を伸ばして武蔵野館で『リトル・ガール』(セバスチャン・リフシッツ監督、フランス、2020)を見た。 コロナ騒ぎが始まって以来、新宿は乗換ポイントとして通るだけだったので、街を歩いたのは2年ぶりになるだろうか。平日の昼…

心理学者正高信男氏の論文不正報道について

■もう一週間前になるが、京大霊長研所属(今年度定年退職)の心理学者正高信男氏に論文不正があったことが大学側の調査で判明したというニュースを読んだ。 ああ、やっぱり、と思った。氏の著書といえば、数年前に自分のコミュ障研究の必要性から、『コミュ…

アニメ『竜とそばかすの姫』の舞台高知と記憶の不思議

■昨日(2021年10月6日)は、緊急事態制限解除に乗じ、ひさしぶりに映画館に足を運んだ。 細田守監督の『竜とそばかすの姫』が上映中だったので、さっそく入場した。面白かったけれど、ここで書くのは作品内容についてでない。 主人公の高校生すずが通学に通う…

研究日誌(2021/9/3)Paul Ricoeur, "Hermeneutics and the human sciences"再読(2)

■Paul Ricoeur, "Hermeneutics and the human sciences: Essays on language, action and interpretation"(Edited,translated and introduced by J. B. Thompson, Cambridge: Cambridge University Press, 1981)からの引用を続ける。 4. The hermeneutical…

どこへいった「罪を憎んで人を憎まず」の精神:池袋暴走死傷事件裁判に思う

先日(9/2)に判決が出た池袋暴走死傷事件は、事件そのものよりそれへの反応の方が、今までになく後味の悪いものになってしまっている。 遺族の気持ちは分かるとしても、本来やるべきことは二度とこのような事件が繰り返されないよう制度的改革を働きかける…

研究日誌(2021/9/3)Paul Ricoeur, "Hermeneutics and the human sciences"を再読する

■Paul Ricoeur, "Hermeneutics and the human sciences: Essays on language, action and interpretation". Edited,translated and introduced by J. B. Thompson, Cambridge: Cambridge University Press, 1981. リクールの1980年頃までの著作をまとめた便…

信憑性を増すコロナウィルス武漢研究所流出説

『文芸春秋』2021年8月号にも長文のレポート「武漢ウィルス人工説を追え!」(近藤奈香)が載り、コロナウィルス武漢研究所流出説がいよいよ信憑性を増してきた。 私は最初から疑っていた。武漢のウィルス研究所から800メートルしか離れていない市場から…

研究日誌(2021/8/8)『数学に魅せられて科学を見失う:物理学と「美しさ」の罠』(ホッセンフェルダー著、吉田三知世訳、みすず書房、2021)を読みながら、人文死生学研究会の発表を反省する

「理論物理学で現在人気のテーマは、単純さ、自然さ、そしてエレガントさだ。これらの言葉は、厳密に言えば、恒久的な定義を得ることは決してないし、私も本書でこれらを定義しようと試みるつもしはない。これらの言葉がいまどのように使われているかという…

出版のお知らせ『明日からネットで始める現象学:夢分析からコミュ障当事者研究まで』(新曜社刊)

■『明日からネットで始める現象学:夢分析からコミュ障当事者研究まで』(渡辺恒夫著、新曜社、2310円)が6月20日に発売になったので、お知らせします。 差し支えない範囲で、「はじめに」の冒頭部分を以下に引用します。 【はじめに】 心理学というと親しみ…

アグリッパ・ゆうの読書日記(2021/6/9)『人は簡単には騙されない』(ヒューゴ・メルシエ、青土社、2021)で初めて知る毛沢東の正体

■『人は簡単には騙されない:嘘と信用の認知科学』(ヒューゴ・メルシエ、高橋洋訳、青土社、2021)を読む。 原書は英語だが著者はフランスの認知科学者。関連性理論のスペルベルの弟子らしい。 というか、そもそも関連性理論を20年前に読んだときには、スペ…

研究日誌(2021/05/25)フッサール「想像と映像意識」における「比較」という方法

■1905-06年の講義「想像と映像意識」(Husserl, E. (1980). Phantasie und Bildbewusstsein, In E. Marbach (Ed.), Husserliana XXIII. The Hague: Martinus Nijhoff.)の原文を3度目に読み返している。ドイツ語力の不十分さを相変わらず嘆きながら。 フッ…

電子ジャーナル『こころの科学とエピステモロジー』3号公開のお知らせ

★★★新感覚のオープンアクセスジャーナル『こころの科学とエピステモロジー』3号(Vol.3)が公開されました。このサイト⇒ISSUES⇒第3号Vol.3から、全記事ダウンロードできます。2号までJ-Stage搭載を終わり、3号の搭載作業中です。 ■エディトリアル「心の科…

アグリッパ・ゆうの読書日記(2021/5/3)『当事者が語る精神障がいとリカバリー』で発見したゲームとホメロスの関係/当事者と家族のすれ違い

■『当事者が語る精神障がいとリカバリー:続精神障がい者の家族への暴力というSOS』(YPSヨコハマピアスタッフ協会&影山正子、編著、明石書店、2018)を読む。ためになる一文をみつけたので、忘れないうちに引用しておく。 「ひきこもっていた時、テレビ…

研究日誌(2021/5/1)想像について

「「間身体性」の近さと隔たりー間身体性の倫理学の構想(2)ー」(坂本秀夫著、跡見学園女子大学文学部紀要、第54号:125-144、2019)を読むの巻 久しぶりに読み応えのある日本語論文に出会った。これまで私がいろんなところに書いた、自己の死と他者とは…

研究日誌(2012/3/26)「人は身体に生まれるのではない、身体になるのだ」

『身体を引き受ける』(ゲイル・サラモン著、藤高和輝訳、以文社、2019)を読んでいて、見出しのような面白い表現にであったので、抜き書きしておく。 「チャールズ・シェーファーソンは精神分析における身体の構成を、「小さな有機体がその身体を探し求める…

アグリッパ・ゆうの読書日記(2021/3/20)『現象学とは何か』を読み、左翼の暴力性について思う

社会学出身の哲学者、西研さんに、『現象学とは何か』(河出書房新社)という共編著を贈られた。 西さん自ら書いた第2章「総論2」を読んでいて、「客観的真理を所持していると信じる者は、ときに暴力的になる」とあるくだりに目がとまった。 前後関係から…

研究日誌(2021/3/14):サルトルの他者論

Zahavi, D. Beyond empathy: Phenomenological approaches to intersubjectivity. Journal of Consciousness Studies, 8, No.5-7, 2001, 151-167 を読む。サルトルの他者論をハイデガーより高く評価するのは有り難いが、サルトルを学生の頃初めて読んだとき…

研究日誌(2021/3/9):ミシェル・アンリによるフッサール他者論検討1

‥‥それは現前化されず、ただ表-象[再-現前化]され、付帯現前化されるだけである。それが他人なのである。まさしくこれが、知覚的経験と他人についての経験との有田にある差異である。第一の経験においては、対象の裏面はいつでも表面になりうる。第二の経…

研究日誌(2021/3/8):夢日記・ギリシャ悲劇『トロイアの女』・時間を異にした私

■2021年3月8日。朝。夢を見た。 長い夢だった。 最後の方では学科の記念行事か何かで、元教員として、自転車に乗ってパレードに参加していた。 私の前を行くのはST。色んなノウハウを知っているので、頼りにしている(このあたり、学科とは何の関係…

研究日誌(2021/3/1):『現実とは何か』

■『<現実>とは何か』(西郷甲矢人・田口茂、筑摩書房、2019)を読み始める。 まだ第1章だが、面白いくだりがあったので、引用しておく。 「観測者から独立である」といっても、一切観測されないのであれば、「物」として問題にすることさえできない。…

「学問の自由と民主主義のための現象学」が『表現の自由と学問の自由ー日本学術会議問題の背景』(社会評論社)の1章として出版された。

■2021年2月21日。 最近、「学問の自由と民主主義のための現象学」という一文を、下記のブックレットの第6章として執筆した。 寄川条路(編)、稲正樹・榎本文雄・島崎隆・末木文美士・不破茂・山田省三・渡辺恒夫(著)『表現の自由と学問の自由―日…

研究日誌(2021/1/21)ヤスパース『精神病理学原論』/アモーダル知覚

●ヤスパース『精神病理学原論』 「もうかなりまとまりのない患者はこう述べた。『私には安らぎはこれっぽちおなくなってしまい、何千年もさまよい廻って、知らないうちにくりかえし生れ変っているのだが、こうなるのは世界の創造の力によるのだ。』(p.72) …