研究日誌(2023/10/23)『ストール精神薬理学エセンシャルズ』より統合失調症の病因について

■『ストール精神薬理学エセンシャルズ:神経科学的基礎と応用Ver.5』(S.H.Stahl, 仙波純一他(訳)、メディカルサイエンスインターナショナル、2022)は、どんな精神医学テキストよりも詳しくてしかもわかりやすいが、1万2千5百円と高価なのが残念なところだ。

 以下に、第4章の統合失調症の病因について書かれたページより引用する。

統合失調症は遺伝的要因(生まれつきの性質)とエピジェネティックな要因(育ち方)の両方の結果として発症すると考えられる。すなわち、多くの遺伝的リスク要因を有している個人が、エピジェネティックな変化をもたらす多くのストレス要因と合併するときに、(シナプスの)結合の障害という形での異常な情報処理、異常な長期増強(LTP)、シナプスの可塑性の低下、不十分なシナプスの強度、神経伝導物質の制御不全、シナプスの競合的除去の異常などが現れる。この結果として、幻覚、妄想、思考障害のような精神症状が出現する。」(p.170、図4-62)

「図4-62.累積する環境的ストレス要因:多数の生活上の出来事←産科の出来事・幼児期の虐待・ウィルスや毒素、マリファナ、外傷体験(例えば、戦争での戦闘)、いじめ」(ibid)

統合失調症の場合に疑われることは、シナプス形成の神経発達過程および脳の再構築が間違ってしまうことである。シナプスは正常では出生から6歳ぐらいまでの間に凄まじい勢いで形成される。脳の再構築は生涯をつうじて起こるが、競合的除去と呼ばれる過程での遅い小児期と思春期の間に最も活発となる。競合的除去およびシナプスの再構築は思春期に達するころからそのおわりまでの間にピークに達する。正常では小児期に存在したシナプスの半分から3分の2だけが大人まで生き残る。精神病の陽性症状の発達(精神病的「破綻」)は競合的除去およびシナプスの再構築がピークを迎えるこの危機的な神経発達期間に続いて起こるので、統合失調症発症の一部の背景としてこれらの過程で考えられる異常に疑いがかけられている。」(pp.172-173)